Hush Hush

数学セミナーの7月号をつらつら読んでいるとペアノの紹介のところで,有名な宵の明星と明けの明星の話がありました.これは,自同律の不快で見たような話です.宵の明星と明けの明星は共に金星なので,これは,a = a とすべきか或いは a = b とすべきか.フレーゲはこれを「意味と意義」の使い分けとします.有名なフレーゲのこの論文の最後は次のように書かれています.

「a = b」において表現されている思想も「a = a」で表現されている思想とは異なる.つまり,この場合には,二つの文が同じ認識上の価値を持つことにはならない(坂本百大編 現代哲学基本論文集)

意義というのは文から読み手が受ける影響なので,a = b には意義がある.意味は真理に関わっていて,そこでは a = a である.両方とも金星なので.このように意義と意味を明確にし,真理に近づくべきということになります.

数学セミナーで私が面白かったのは,次の部分です.

彼の議論は評判が悪く,ペアノはフレーゲに,「私の記号法であなたの仕事を書いてみてはどうか」と勧め,フレーゲがその勧めに従っていたならば,学会から無視されることもなかったのではと惜しまれる.

さもありなん.数学と哲学の違いになるでしょうか.ちなみに,私はフレーゲ派です.

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さて,ISO/DIS26262には,confidenceという単語がでてきます.Part毎に見てみると次のようになります(括弧内が使用回数).

part 1 (1)

part 2 (1)

part 3 (2)

part 4 (3)

part 5 (4)

part 6 (1)

part 7 (1)

part 8 (26)

part9 (1)

 

顕著に多い Part. 8 は支援プロセスに関する規定で,この中でもっとも典型的な例といえば,TCL(Tool Confidence Level)でしょうか.TCLはASILと同様に4段階定められていて機能安全確保のためにツールが満足すべき規定となっています.なぜ,confidence なのでしょう.Oxford英語辞典で引いてみると第一義は次になります.

The mental attitude of trusting in or relying on a person or thing; firm trust, reliance, faith (人やものを信用したり頼ったりするする*心理的*傾向)

ふーむ.心理的というのは,余りに心許ない気がします.SILが Integrity(完全性)という強い言葉を使っているのと比較すると余計そのように思います.

ツールは,それ自身がシステムの一部として実行したり,勝手にシステムを作ったりするわけではない,あくまで間接的にシステムと関わるからということなのかもしれません.

一方で,Kellyさんたちが,GSNに Confidence の概念を持ち込もうとしているのをつらつら考えるに,26262に見られるように,直接は integrity で,間接(支援)は confidenceというのは,素朴すぎる区分のようにも思います.意義と意味ではないのですが,真理(そこに到達することはないのですが)と,納得としての意義は両方必要に思います.

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さて,今回のタイトルは,きわめて単純な連想です.おわかりになったでしょうか.Confidence -> LA Confidential -> Hush Hush です.J. Ellroy は私の好きな作家の一人で,彼の一連の代表作にでてくる雑誌名がこのHush Hush です.ここでの Confidence は,内緒の意味ですね.MCL (Magazine Confidence Lelvel)があれば,4 でしょうか.

(nil)