3はなお3でありながら

正式版のISO26262 Part 10 を読むと,直接書かれていること以外でいろいと思いを巡らすことができます.読み物としてはとても興味深いものです.

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以前に「アイテム」について考察しました(不思議なアイテム).Part 10をもとにちょっと違った側面から考えてみます.下の図をみてください.これは,ドラフト版と正式版にある用語の関係を示している図です(共に p4).各ノード名称を日本語に変えています.また,色が付いている部分は,私の方で説明用に付加したもので,オリジナルにはありません.

せっかくですから,この2つの図を比較して,作成者の意図を想像してみることにします.共に基本的な構図は同じです(ノード的には「エレメント」が除外されていますが,説明しづらいので外したということでしょう.位置づけ的には変わっていないので,ちょっと複雑ですが表現は可能だろうと思います).

ドラフト版では,E-R図風だったものが,UML風に変わっています.UML風というのは,基本的にはUML方式の記述だが一部違っている部分があるということです.例えば,点線矢印の部分は,UMLクラス図にはない記述方法です.ISO26262の説明では,実現(realization)を示しているとあります.UMLでも点線で実現を示すことができますが,アローヘッドは白抜き三角です.ただ,別にUMLで書くとは記載していないので,あまりたいした話ではありません.

さて,(規格書の説明によれば)ここでは,「一つのアイテムは,一つないしは複数のシステムによって実現されている」および「一つの機能は,一つないしは複数のシステムによって実現されている」と読むことができます.

即ち,赤い矩形の中の要素である「アイテム」および「機能」は,実現されるべき対象ということなりますから,抽象的なもの,すなわち観念的なものを示しているということができます.一方で,青い矩形の中にある「システム」や「コンポーネント」および「パーツ(ハードウェア)/ユニット(ソフトウェア)」は,(実現された)具体的なモノということになります(コンポーネントに関しては,論理的なまとまりをすることもできるのですが,すくなくともこれがコンポーネントと指し示すことはできるはずです).

プラトンではないのですが,イデアとしての「アイテム」があって,「システム」以下が具現化される.「機能」というのは,いわばイデアとしての「アイテム」の(複数ある)特徴だということになります.まっさらの状態から開発を進めようとすれば,具体的なモノはないのですから,観念的なところからスタートしないといけないという云い方でもよいかもしれません.

このように「アイテム」は,「システム(或いはシステムの集合)」の(実現という意味で)上位にあたりますから,かなり広い範囲を指し示しています.また,「機能」も,特定の「パーツ/ユニット」といったものの一般的な機能ではなく,「アイテム」の機能ですから,ユーザ視点でのゴールと考えた方が適切です(本来はここに非機能も含まれるはずです).この新しい図がUML風に表現されていることに敬意を表してUML的解釈をすると,最初のユースケース図において記載される,各ユースケースが,このゴールである「機能」に相当するといえそうです.

従って,普通名詞的に用いてしまいそうな「アイテム」「機能」には十分な注意が必要と云うことになります.日常生活とはかなり違った文脈で定義されているということを理解しておく必要があります.

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さて,タイトルの「3は3でありながら」は,プラトンのパイドンからとりました.このあと次のように続きます.”(3は3でありながら),偶数になることに耐えるよりは,むしろ,それ以前に滅びるなり,そのほかどんな目にでもあうなりするだろう”(世界の名著シリーズ(プラトンⅠ)).壮大なイデア論における一つの典型的な例示になります.ところで,正式版のコンポーネントの濃度は,3以上になっています.この3は,(最低の区分としての)センサー/論理処理部/アクチュエータを指しているのですが,陽に書かずに,単に3としているところが,ちょっと微笑ましい.

(nil)