KAOS (2) 問題の世界と機械の世界(1.1.1-1)

ソフトウェアプロジェクトの目的は,問題を解くための機械を作って,世界をよりよくすることである(p.4).

世界と機械の組となると,当然 M.Jackson の本 1では,主要なテーマになっている(ちなみに,原題はソフトウェア要求と仕様).M.Jackson氏の説明は,以下の通りである.

システムとは世界に導入された機械の一つであり,そこでなんらかの役割を果たすことが期待されている.導入された機械と相互に要する世界の中の一部分は,[適用領域]と呼ばれる.

図式すると以下のようになる.

Lamsweerde and M. Jackson

世界と機械

Lamsweerde氏の図式は,世界と機械は基本的に分離しており,その共通領域には仕様があるという構成になっている.世界から機械の記述への変換をテーマにしているので,この図式が分かりやすい.M.Jacksonの絵では,世界に機械が埋め込まれている.ただ,機械は直接世界と結びついていない.適用領域が仲介している.緑の窓口であれば,販売の駅員が介在し,切符を求めてきた人とコミュニケーションしながら機械を操作する.世界の住人としての私が,直接機械と向き合うわけではない.

もっとも,いまではむき出しの機械と出会うことが多いかもしれない.乗車券を買うと言うことはすっかり少なくなった.これは,人間が馴致した(いわば駅員を自らに取り込んだ)結果に過ぎない.適用領域はあくまで存在している.

似たような図式に,J.Lacan氏のいわゆるボロメオの結び目(Anneaux borroméens,ボロメオの環)がある.

Lacn, Anneaux borroméens,ボロメオの環

ボロメオの結び目

ここでは,少し飛躍して援用すると,想像界とは我々がイメージとして捉えている世界である.それに意味を与えるのが,言葉に代表する象徴界になる.漠然とした思いも,言葉にすることで文節化され表現できた(気分に)なる.現実界は世界のそのものである.それが何かは通常見ることができない.我々がイメージや言葉に囚われるからである.3つの世界があるというより,3つの見方があるということになる.

システムを作るということは,要求者のイメージがあり,それを言葉にする.しかし,現実を直接に見ることができないので,問題が生じることが多い.ちょっと乱暴な説明に思えるが,私としてはすっきりする.

先の2つのモデルとの違いは,ここには人を突き動かす動機がある.中心の「欲望の対象」である.それが何かは別の問題として,何かをもとめてイメージし,言葉にし現実と向き合う.

もう少し,普通の言葉でいえば,どうしてそういう要求が存在するかの「理由」ということになる.それを実際に知ることができるかどうかは不明である.知られたくないかもしれないし,実は本人にも分かっていないかもしれない.

(nil)

Notes:

  1. 『ソフトウェア博物誌―世界と機械の記述』(Michael Jackson(原著), 玉井哲雄・酒匂寛(翻訳))、トッパン、267頁、1997年